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会社やお店をはじめる前の準備

従業員満足度を優先する会社づくり

 前述の「顧客満足」または「顧客満足度」に対して、「従業員満足」または「従業員満足度」という概念があります。こちらは英語のEmployee (従業員)Satisfaction(満足)を直訳したもので、ESとも呼ばれています。顧客満足は古くから提唱されてきた概念ですが、近年は真に企業価値を高めるためには従業員満足度の向上に取り組むことが重要であるとの認識が広まってきました。弊社ではこの従業員満足度は、顧客満足度以上に企業にとって大きな役割を果たし、不況のなかにおいても経営環境を好転化させる特効薬であると考えております。

 従業員が満足して働くことのできる環境が整っていてはじめて、顧客を満足させることのできるモノやサービスの提供が可能となるのです。ですから、会社やお店が顧客満足度を高めたいと思うのであれば、まずはじめに従業員満足が充足されているかを検討することをお勧めします。従業員が「自分の会社を大切にしたい」と思えれば、自然と顧客が満足できる、感動できるサービスを無意識のうちに提供できるようになるからです。

 弊社が提唱する従業員満足度の向上のメリットは、大きく分けて2つあります。

 ひとつは、従業員満足度が高い会社は、経営効率も高いということです。

 中小企業の多くは現代においては経営環境が厳しく、人材にコストをかけることができないのが現状です。そのため、法律で定められた残業代や休日出勤などの割増賃金を支払わない企業、最低時間給で労働させる企業が多くあります。ひどいところでは、有給休暇を与えない、不当な解雇を行う、という企業もあります。しかしそのような会社やお店では、従業員は安心して働くことができず、自分の与えられた仕事に対する向上心やモチベーションを高めることができません。結果として離職に繋がり、企業はまた新たに求人広告を出し、雇用した際には先輩従業員を指導教育係に充てなければならず、かえって人件費も事務コストも増大するのです。

 優秀な人材を見つけることができない、離職率が高いと嘆く経営者のなかには、自分の理念や経営方針が従業員に伝わらないという人がいます。しかしながら、多くの経営者は自己実現のため、つまり自分の夢をかなえるために創業・開業するわけですが、従業員の多くは生活の糧を得るために働くのです。自己実現のためとか、自分の小さなころからの夢を叶えるために働いているという従業員はごく僅かのはずです。その経営者と従業員の「温度差」を埋めるためには、従業員の立場になって、従業員が満足して働ける会社やお店づくりをしていかなければなりません。

 2つ目に、従業員は最大の広告塔であるということにあります。

 みなさんも「自分のお気に入りの飲食店」というものが一つや二つあるでしょう。でもそこは、本当に、他のお店ではマネのできない特別に「おいしい」食事を提供するお店だったでしょうか。特別な食材を使用していたり、画期的な調理方法を行なっているお店だったでしょうか。以外にも細かな点は覚えておらず、ただ何となく「おいしかった」と記憶していることもあるでしょう。その「おいしかった」という記憶が刻み込まれた原因の多くは、「オーナーや店員の対応が気持ち良かった」とか、「お店の雰囲気が良かった」というものから派生しているものです。

 どれほど高級な食材を使って調理したとしても、従業員の愛想が悪かったり、態度が不快なものであれば、「おいしい」と感じることはできず、ましてお気に入りの飲食店という記憶には残らないものです。一方で、おかみさんが一人で切り盛りしているような地方の普通の食堂でごく普通の定食を食べたとしても、そのおかみさんとの会話やお店の雰囲気は心に深く残るものです。

 何万人も従業員がいる大企業であっても、たった1人の従業員の不手際や心ない接客が、そのお客様にとって企業全体の価値を下げることがあるように、たった1人の従業員のちょっとしたおもてなしや心遣いが、企業価値をその実力以上に高め、大企業に負けない素晴らしい会社としての評判を得ることができるのです。

従業員満足度を高める方法

 従業員に、「自分の会社を大切な会社」と思ってもらえるようにするためには、たくさんの方法があり、どれもコストをかけずにできるものです。ただし、コストはかからないものの、経営者としての「熱意」や「愛情」は必要です。

 ひとつは、経営理念を明確化し、すべての従業員に深く浸透させることです。経営理念とは、「この会社は何のために存在するのか」をいう経営者の思いや信念のことであることは経営理念とはのページでご説明いたしましたが、この経営理念にすべての従業員が賛同し、業務の内外において経営理念に基づく行動をすることによって、全員参加型の経営が可能になり、経営陣と従業員間の信頼も強まり、会社全体の士気が高まります。同じ目標をもつ仲間が集まれば、たとえ一時的に業績が伸び悩んだとしても、経営陣と従業員の絆は強いものです。現在世界最大の航空会社となったデルタ航空は、かつて倒産の危機にあったとき、全従業員が給与の減額を申し出て会社に当時最新鋭の航空機であったB767型機1機をプレゼントした、といわれています。
 経営者は「売り上げを伸ばす」「コストを削減する」「得意先を増やす」といった経営効率だけでなく、「この会社がなぜ自分たち、そして社会にとって大切にされるべき会社なのか」ということを、パートやアルバイト従業員も含めてすべての従業員に対して熱意をこめて語るべきです。もちろんその際には、独断的、独善的にならないようにし、みなに受け入れられる理念であるべきです。

 2つ目に、経営者と従業員、従業員同士の意思の疎通を日頃から円滑にしておくということです。中小企業の経営者は、いわゆるワンマン社長で家族・親族従業員(役員)以外の従業員の話に耳を傾けないことがままあります。上場企業の経営者であれば通常の従業員と接する機会はほとんどないのでトップダウン型の意思伝達でも問題はありませんが、中小企業であれば、経営者や役員の魅力は従業員の士気に大きく影響するものです。そのためには、単に朝礼の時間を設けるだけでなく、従業員ひとりひとりと個別にコミュニケーションを図る時間を設けることが必要でしょう。昨今では職場の環境が原因による精神病も多く、精神面でのケアも重要になってきています。従業員が元気であり、生き生きと笑顔で働くことができる職場であれば、会社の業績も自然と好調になるはずです。

 3つ目に、従業員を評価する基準を明確にしておくということです。会社では、給与や賞与を算定したり昇給させたりするのに、従業員間である程度区別化しなければならないこともあります。そのようなときに、評価の基準が曖昧で、経営者の好みや気分次第で給与や役職が決定されているのではないかという誤解が生じることがあれば、従業員のモチベーションは下がってしまいます。そうなりますと、従業員はお客様を大切にするよりも、経営者や上司の機嫌をとることに気を取られてしまい、顧客満足が置き去りにされる可能性もあります。それを防ぐために、従業員の評価の基準を社内で公表することができれば、従業員は自分も頑張って一定の水準に達すれば必ず評価されるということが理解でき、従業員自ら目標を設定し技術を向上させることになるでしょう。

 評価の基準は公正かつ公平なものでなければなりません。つまり、経営者や上司から見て公正かつ公平であればよいというものではなく、従業員から見ても公正かつ公平に評価されることが約束されているものである必要があります。そのためのひとつの方法として、従業員にも自信を評価してもらう機会を設けることができます。経営者らが評価した項目と同じ項目を従業員に提示し自ら評価してもらうことができます。そうすれば、当該従業員が評価されない分野があったとしても、自分はなぜ評価されなかったのかその理由を受け入れることはたやすくなります。

 4つ目に、前述の評価に応じて、中長期的な職務の道や展望を策定することです。たとえば、こういうスキルを身につけたら主任になれる、そしてそれに応じて年収も決定される、というものです。目標のない緩慢な人生はつまらないものであるのと同様に、仕事においても目標がなければ天職とはなり得ません。

 このためにぜひ考慮していただきたいのが、キャリアパスという制度です。この点について、次のページからご説明いたします。